爪の話
批判しているのではなく、まだその前段階。
長く伸ばした爪に色々な絵を描く、ネイルアートとでもいうのでしょうか。
あの絵を描くのに、片手で1万円かかるのですって。
爪を伸ばしているだけでも恐ろしいのに、あの小さな爪に絵をかき、先の方だけ白く隈取りしたりして、却ってきたならしく見えるようにデザインしている多くの女性の方々。
水仕事などはなさらないのでしょう。
さて、もう15年も前になるだろうか。
日本語学校で日本語教師を始めたころのこと。
30歳近い韓国人の女性の生徒さんがいた。
年齢がほかの生徒より離れていたことと、中国人が大多数だったこともあって、何となく私に近づいてきた。
20代、30代の教師が多い中で、私も日本語教師仲間では一人年齢が高かったせいでしょう。
ある日、学校を出た後の就職の話になった。
「ネイルアーティスト」になりたい、と言う。
聞いたことも、見たことも、想像もできない仕事だった。
爪に絵を描くなんて!?
なんでそんな無駄なことせないかんの?
そのころ、もう韓国にはその仕事があると彼女は言った。
日本ではまだ珍しい分野だから、日本で始めたい、と。
悪いけど、私の価値観とは正反対に位置していた。
そんな仕事、絶対に日本では流行らない。
韓国人と違い、日本人は華美なことは善しとしないから、と言ったように思う。
私の見当は見事に外れた。
今、周囲の老いも若きも爪に何かくっつけている人の多いこと。
爪を磨いて光らせ、きれいに見せることは悪くないんですよ。
何でいろいろ載せなくてはいけないの?
爪は目立つかもしれないが、ご本人はきれいに見えるのでしょうか?
彼女の仕事の望みはもう一つあった。
映画の特殊メークアーティストになりたいという。
ゴジラや幽霊をさもそれらしく見せるのには、特殊メークを使っているから、と。
これも特殊過ぎてついていけなかった。
韓国は映画産業が盛んで、国の外貨獲得の手段にもなっているくらいだから、こんな仕事への意識が高くてもおかしくない。
今になると、映画の特殊メークというのは、まことにうまいと思う。
けがをしたり、やけどしたりした部分を見た時には、うなってしまうほどにうまい。
芸術の域に達している。
彼女はどっちの仕事についただろうか。
どっちの仕事にも理解が足りなくて申し訳なかったな。