息子介護
田舎には適当な仕事がなかった。
そして、60歳を越えたころ、親たちは80歳を越え、故郷で一人何とか頑張っている例が多い。
60歳を越えても年金は65歳からでなければ出ないため、働かなければならない。
60歳で年金生活に入れるなら、帰省して母と一緒に暮らせるものを……。
Aさんのお母様は84歳にして一人暮らしだった。
バスでなければスーパーのあるところまで出られないところに住んでおり、それでも一人で何とか気丈に暮らしておられた。
Aさんは、関西から毎月1回帰省して、お母様のお世話をしてきた。
飛行機で毎月帰省するのも大変なことだったと思う。
実は私も、2005年から両親の介護のために帰省を繰り返している身である。
夫の働きがあるため、私には1週間くらいの帰省が可能なのである。
確かに、一家の主ではない女性には自由がある。
しかし、これも働いていないからできることである。
昨今、女性も働くことを求められ(政治が女性の労働力を欲しがっている)、65歳まで働くことになると、条件は男性と同じである。
娘だからとて、親の役に立つとは限らない。
娘も、親の生活より自分の生活の方が大切なのである。
Aさんのお母様は、昨年亡くなられた。
十分なことをしたとは思い難いだろうが、Aさんはできるだけのことをしたという思いで、すがすがしさはあるのではなかろうか。
昨今、妻が夫の親の介護をしない例が多い。
妻には夫の親への義務もなければ財産権もないので、無理もないと言えば無理もない。
Aさんのように、夫がこうやって帰って親の介護にあたることを許容してくれればまだ良いが、帰してくれない妻の例もある。
つくづく、妻の器一つが夫を孝行息子にも親不孝息子にもする、と思わざるを得ない。
こういうことを考慮すると、「男は役に立たん」と言い放つ世間の常識に、違和感を覚えるのである。