田んぼのように広い手の平
両ひざのために、両手に支えを持って歩かれる。
大切なお客様のお見送りのために、石段を下りなければならない。
(危ない!)
咄嗟にお傍に走り寄り、ご一緒に、と言うと、
ためらいがちに左手を出された。
下から支えて俊董師の掌を取ると、
それは、固くもなく柔らかくもなく、大きな田んぼのような、
包容力を感じさせた。
お客様をお見送りしてから、再び堂内に戻る。
又もお一人で歩いて来て石段の前に立たれた。
今度は石段を上るのである。
又も、我が体が素早く動いて、「ご一緒に」
と言うと、又もためらわれた。
「させてください」
と言うと、面を向け、キラキラ光る美しい眼差しで、
大輪の花のように笑われた。
しっかり俊董師の手を握った。
その掌から、何か美しい尊い佛の慈愛が、
しきりに私の右掌に降り注ぐ実感があった。
私たちは、いち、に、さん、と声を出し、
子供の石段遊びのような楽しい気分で短い階段を上り切った。